可能性は屋上にあった。都会で楽しむ晴耕雨読の暮らし【菜園長屋】

土をいじり、自分で食べるものを自分の手でつくる暮らし。ご近所さんとのなにげない会話や持ちつ持たれつの関係。
東京23区の賃貸住まいでは、なかなか手に入らないですよね。毎日の生活に直結しない場所や時間をもつことは贅沢とさえ、言えるかもしれません。
けれども、こんなかたちなら都内でも土にふれ、心豊かに暮らせる場がつくれるのではないか。今年、大田区に誕生した「菜園長屋」はそんな可能性を示してくれました。

自分の手で住まいを育てていく楽しみ

屋上の菜園も珍しいのですが、この家には、室内にも「何に使うんだろう?」と一瞬考えてしまうような、ちょっと変わったスペースがあります。

たとえば、そのひとつが中二階に設けられたウォークスルークローゼット。ウォークインではないんですよ。ウォークスルーなんです。なぜウォークスルー、つまりは通り過ぎてしまうかというと、限られたスペースをより自由に使ってもらうためでした。

  • ここが階段の途中にある、世にも珍しいウォークスルークローゼット。

「1階から3階までとにかく開けられるところは開けておくようにしました。ここは収納と決めてしまうと用途が限定されてしまいますが、住む人の生活スタイルによって、部屋の使いかたは変わります。たとえば、キッチンの下も扉はつけずオープンにしました。獲ってきた土付きの野菜をおいてもいいですし、自分で気に入ったカゴを見つけてきておいてもいい。自由に楽しく住んでもらえればと思います」

ウォークスルークローゼットも扉をつけて閉じてしまうと、クローゼットとしてしか使えませんし、奥行がなくなって圧迫感もでてきます。けれども、天井にバーをわたして、カーテンレールだけつけておけば、服を見せたくない人は閉じればいいですし、逆にディスプレイした人はオープンにしておいて広く使えばいいのです。

  • シンプルで男性が立っても似合いそうなキッチン。カッコよく使いこなしたい。

どこを開けて、どこを閉じるかという選択肢は、実は、玄関から屋上に至る各階の階段にも設けられています。

この家は玄関から屋上へ向かうドアまでの間はドアが一枚もありません。階段で上までずっとつながっているため、冷暖房の効率も考えて、カーテンを付けられるようにしてあるのです。

  • 照明もお気に入りのものを選んで。

暑がりがいれば、寒がりもいる。荷物が多い人もいれば少ない人もいて、キッチンを多く使う人もいれば、お風呂に時間をかける人もいる。同じ生活行為でも、どんなふうにするかは人によって、まったく異なります。

そんな生活スタイルの違いは、賃貸住宅ではあまり考慮されることがありません。でも、いずれは引っ越してしまうかもしれない家だとしても、やっぱり住むところは自分が使いやすいように、心地よくいられるようにしたいですよね。

人が家にあわせるのではなく、家を人に合わせられる度量の広さが、この家にはあります。

  • 家具が映える、まっ白な部屋。あなたなら、どんなインテリアにする?
  • シンプルなので、どんなテイストでもいけます。置き畳で、和な雰囲気にも。

「1階のエントランスも土足と内履きの境界線を自分で決められます。自転車を置いてもいいですし、テーブルと椅子を置いて来客スペースにすることもできます。絨毯をしいて区切ってもいいですしね」

どうやったらいちばん使いやすいだろう? このスペースを何に使おう? どこがいちばん快適だろう?

この家には、そんなふうに自分にとっての心地よい暮らしを再確認させてくれるような質問があちこちに隠れています。

「ぜひ自由な発想で楽しんでほしいですね。シェア入居もOKなので、ぜひ、ご友人や家族を誘って見にきてください」

実は、我々リノスタ編集部の前後にも多数の取材が入っていて、菜園長屋は業界でも注目されている様子。まだ、建物ができたばかりで、ここが人々の住まいとして完成するまでには時間がかかります。四季の変化や住人の出入りを経て、どんな長屋に育っていくのか、今後が楽しみです。

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PHOTO by Yusuke Nishimura

菜園長屋

屋上に菜園のある長屋形式の賃貸住宅

木造地上3階建て
総戸数6戸(Cタイプ51.06㎡〜)、
月額家賃13万円〜(管理費別)
2017年1月下旬より入居開始

施主 株式会社メイショウエステート
企画 株式会社クリーク・アンド・リバー社
設計 株式会社吉村靖孝設計事務所
施工 株式会社リクレホーム

WRITER'S VOICE

雪もいいし、きっと晴れもいい。つまり毎日いい。

ほんのひととき滞在しただけですが、空間を豊かにするプロの力って、やっぱりスゴいです。
玄関をあけた瞬間なんて、見とれてしまいました。階段から筋状にもれてくる明かりが、とってもきれいで。
なのですが、私が強調したいのはオシャレさよりも心地よさ。
あくまで見学しての実感ですが、この家の真価はたぶん、何もしない時間に発揮される気がします。ゴロンと横になったり、腰かけてボーッとしたり。居心地がよくないと、そうやって、のんびりできないと思うんですよね。その点、屋上の菜園といい、通りに向かって窓のあいた部屋といい、この家は最高。
猫みたいに家のなかで一番いいところを探して、ただ佇んでいたら、すごく心が満たされそうな気がします。また晴れた日に行きたいなぁ。

※取材日は雪でした

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