「ただ、音楽が好き」が、つらなって、つながって、いまココ。【DAWA(FLAKE RECORDS)】

大阪・ミナミにある何の変哲もない商業ビル。小さな入り口をくぐり、ひとつ階段をあがったその先に、世界的に存在を轟かす誉れ高きレコードショップがあることを、ビルの前を行き交う人々の多くは気づくことがないのかも知れません。
FLAKE RECORDS。一部ではレコードカルチャー自体が終焉を迎えたとすらささやかれる中、気付けば10年にわたって、多くのミュージックラバーから、そしてミュージシャンから絶大な支持を受け続けてきました。
しかし、その店主であるDAWAさんは、一見どこにでもいそうな大阪の良き兄ちゃん(ん? もうおじさん??)だったのです……。

洋画好きの一少年が、自身のショップを持つまでに。

「まいど。ひさしぶり」

90年代のヒップホップレジェント、ブラック・シープのTシャツで、少し先にお店に着いた我々のもとにDAWAさんが現れます。実は取材を担当したライターとはかれこれ20年近いお付き合い。DAWAさんの気取らない大阪弁も、愛くるしいクシャクシャな笑顔も、昔と変わりません。

「この店は2006年からやから、去年10年たったわ。お店はね、コンセプトとかっていうより、俺が好きな音楽を集めて置いてるだけ

でも俺が前に出るの、すごいイヤやねん。居酒屋とかでよく見る“名物店長”みたいなの、めっちゃイヤ(笑)。『DAWAの店ってなるんじゃなくて、お店自体が前に出て、店長はその後ろにいるくらいの見え方が1番いいよね」

DAWAさんはそう言うものの、特に関西における“DAWAブランド”は、もはや疑いようのないところ。音楽ファンはもちろんながら、特にミュージシャンからの信頼は非常に厚く、日々、お店に訪れる国内外のアーティストを、DAWAさんのTwitterなどで眺めているだけでも、音楽的好奇心が満たされる気がします。

「やっぱり音楽が好きなんよ。じゃないと無理やで、この仕事。今でも、レコードショップの店長である自分を、音楽ファンである自分が上回ってると思う。だって、自分が聴きたいモノを仕入れているし、その中で自分がいいと思ったものを売りつけているわけやん? エゴのかたまりみたいな商売よね」

音楽が好き。一聴するとチープで、どこにでも転がっていそうなその概念こそが、DAWAさんの歯車を回し続けてています。そして、その回転が始まったのは、彼がもっともっと小さかった頃。

  • 変わらないDAWAさん。でも、髪に白いものが少し混じってきましたか??

右手におニャン子クラブのレコード。左手にはガンダムのプラモデル。どこにでもいそうな男の子が音楽の世界にどっぷりと漬かるのに時間はかかりませんでした。

「小学校のころ、映画が好きでね。洋画を見ては、近くのレンタルレコード屋さんに行って、そのテーマ曲が何なのかを教えてもらってた。そこから洋楽に入ったのかな。フラッシュ・ダンスとか愛と青春の旅立ちとかの主題歌がチャートの1位だったことを覚えてる。

音楽の情報は、そのレンタルレコード屋さんで立ち読みする本と、お店に貼ってあるビルボードのランキングとかから。マドンナとかマイケル・ジャクソンとか、後ボン・ジョヴィとかデフ・レパードとかが出てきた時かな

その後、これまたどこにでもいる若者らしく、ギターを手にし、バンド活動を行い、淡く将来を見すえながらも、どこかくすぶったままに時間だけが流れていく青年期を過ごします。

「バンドもやりたかったけど、そんなに真剣には考えてなかった。トラックの運転手になってもいいかなとも思っていたし。移動中に好きな音楽を大きな音でかけながら。だから引越し屋のバイトとかをしてたな。

25歳からCD屋さんのバイトを始めたんよ。その時は普通のレジ打ちやったけど、バイヤーアレ入れろアレ、ぜったい売れるって口出しはしてた。宇多田ヒカルとか、くるりがデビューした頃やったな」

  • ちょっと、雑多。めっちゃ、ワクワク!
  • 店内のアイテムは1枚1枚コメントつき。

やっと音楽の世界に足を踏み入れたDAWAさんの人生は、言わばこの辺りまでがプロローグ。その後、時代の流れが、DAWA青年の背中を少し押すことで、ちょっとした転機が訪れます。

「その頃、インターネットが流行りはじめてさ。まだ夜の11時から朝の5時までが使いたい放題みたいな時代やったけどね。そこで音楽好きが集まって顔も見えないまま匿名で音楽トークをする、みたいな文化があって、めちゃめちゃ盛り上がってた。そのチャットルームにいた人が俺のバイト先まで会いに来る、みたいなこともあって。今でいうオフ会的な(笑)

そのコミュニティの中に、のちに俺が働くことになるシフトレコーズの店長がいた。そこがちょっとしたターニングポイントかな」

今よりもっと多くのレコード屋さんが大阪の街にも見られた時代。シフトレコーズは、主にロック、ポップスなどのレコードを扱うことで、人気を博していました。その店長に、バイヤーとしてお店に誘われた時に、彼の人生の新しい物語が動き出します。

  • 四ツ橋筋を西に入ってすぐ、2階にあるよ!
  • いたるところに、直筆サイン。

「その店長は、ある人気バンドのマネージャーもやっていて、そのバンドが爆発的に売れたことで、ある程度デカい金得たわけ。その資金で、当時は小さな店舗だったシフトレコーズを移転させて、すごく大きく、キレイに改修したんよね。そのタイミングで、俺は社員として雇ってもらった

2000年代の前半で、まだレコードも流行っていたし、当初はイケイケで経営もすごく順調やった。でもすぐにレコード市場はダメになったんよね。その流れを肌で感じつつ、お店の運営面でもダメなところを見ていた。その経験を活かして、今やっているよ」

レコードショップを運営するためのノウハウを知ると同時に、「これをやったらダメ」を知ることができたシフトレコーズでの時代。

DAWAさん自身は、シフトレコーズが店じまいする直前にお店を去りますが、そのすぐ後に、新たなビジネスパートナーから「もう一度、レコードショップをやろう」と声をかけられたことで、また次のエピソードが始まります。

「シフトでいい面も悪い面もいろいろ見てきたから、開店資金さえ何とか用意できれば、成功する確信はあったよ。だからシフトを辞めてから2年間くらいは、ヤフオクでレコードを売って食いつなぎながら、自分の足で資金集めをしてた。

結局、ムダな金を使ったらアカンねん。ココ、内装とかめっちゃ安いもん。木を立ててるだけやから(笑)。それでよく10年もやってきたなとは思うけどね」

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PHOTO by Genta Hisada

DAWA(FLAKE RECORDS)

FLAKE RECORDS代表。

世界各国の音楽を輸入し紹介する店舗業務の傍ら、自主レーベル「FLAKE SOUNDS」を主宰。 洋邦問わずにバンドのライセンスリリース、アナログリリースを行っている。

また「TONE FLAKES」と銘打った自主イベントで海外アーティストの招聘ツアーや、来日バンドやインディーズバンドの関西公演の企画などを行う。2017年1月現在で、Vol.117まで発表されている。店頭では頻繁にインストアイベントを開催。

自身はDJとしてライブの転換専門としてイベント出演を行う。

酒場が好き。

FLAKE RECORDS

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12:00 – 21:00 年中無休(年末年始は除く)

FLAK RECORDS公式サイト

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