夫と妻と、犬が一匹。築37年の中古マンションを買って、リノベーションをする話です。

家族紹介

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自然のなかで生きるか文明のなかで生きるか、と問われたら、文明のなかと答えます。今のところ。

何かといえば「無添加」「オーガニック」「ボタニカル」などと得体の知れない、しかし何だか体に良さそうな宣伝文句が並ぶ昨今でありますけれども、それは住宅業界においても同じだと思います。前にも少し書きましたが、夫はもとより、わたしも以前は住宅系の広告に携わっていたので、自然素材で造られた家の、床は無垢材、壁は漆喰あるいは珪藻土、化学接着剤は使わずシックハウス対策は万全、みたいな住宅のコピーもたくさん書きました。

ちなみに、ほんとうに本気でシックハウス撲滅を願って自然素材にこだわっている住宅企業もあれば、無垢材を使っているという理由だけでやんわり「自然派」を謳っている場合もあるので、こだわりの強い方々は耳ざわりのよい言葉に流されず、実質的なところをきちんと確認したほうがよいと思います。わたしが言うのも何ですけれども。

自然素材、ではないフローリング

自然素材の家に関するコピーを書くときは、シックハウス症候群がどういうものでどれくらい苦しんでいる人がいるかなどをかなり調べるので、実際に患っている方のドキュメンタリーを観ては「化学物質こわい! 自然素材万歳!!」という気になり、同情して泣きながらコピーを書いたものでした。しかし、人間のなかでも比較的おろかな部類に入るであろうわたしは、いざ自分ごととなると、「無垢材って高いな」「我々今のところたぶんシックハウス症候群じゃないしな」「でも無垢のフローリング恰好いいんだよな、見た目が」などと考え、結局のところ、表面に数ミリの無垢材を貼った合板フローリングを選択したのでありました。

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素材はオーク。少しヴィンテージ加工してあるタイプのものを選びました。ヴィンテージではなくヴィンテージ加工、というのは若干恥ずかしいのですが、多角的に考えるとそれがいちばんバランスがよいように思いました。

床は呼吸しないでほしい

かつて、「化学物質こわい! 自然素材万歳!!」と思っていた頃に、言えなかったことがあります。しかしこの「正直なすみか」は正直がテーマなので、正直に書こうと思います。

無垢の床材についてよくある「無垢の床材には調湿性があるため、季節や温度変化によって伸び縮みし、フローリングに隙間ができることがあります」みたいな説明。自分でも何度か書いたことがありますけれども、わたしはそっと思っておりました。隙間はイヤやな、と。「風合いとしてお楽しみいただける方におすすめいたします」みたいなことも書きましたけれども、やっぱり思っておりました。お楽しみいただけない自分であることが恥ずかしい、と。

だって、隙間があればゴミが落ちますでしょう。髪の毛とか、犬の毛とか、パンくずとか。しかも取れないでしょうきっと、一生。頑張れば掃除できるのかもしれないけれども。たぶん、わたしは取らないです、一生。隙間のゴミも、パンくずも。そうなるともうその隙間は、見て見ぬふりをし続けるしかないブラックホールになってしまうわけです。

だからわたしは思うのでした。無垢材と上手に付き合っていくだけの人としての器が、わたしには無い、と。

これは残念なことではありますが、隙間ができるくらいであれば床は呼吸をしないでほしいと思います。調湿機能は電化製品に任せればいいではないかと。でも見た目は恰好いいから表面は無垢のフローリングにする、という。見方によっては中途半端な選択となりました。しかしそれが今の我々にはしっくりくる選択だったのだから仕方がない。我々が住む家であるのだから、誰に見栄をはることもなく、気に入って過ごしたいと思っています。

段差にこだわる夫

すかんと広いLDKがよい、というのが当初からの希望であったのですが、その中で「段差がほしい」というのは夫の強めの希望でした。築37年のマンションなので、ただでさえ天井高はそれほどないというのに、それでもフローリング部分には高さを出して段差をつくりたいと。理由はシンプルで「カッコイイから」と。そしてわたしも同意しました。確かに段差というのは、広い空間のなかでいいアクセントになるし、それにわたしはモールテックス部分はスリッパを履きたいけれどもフローリングは裸足で過ごしたいと思っていたので、段差があるとスリッパが脱ぎやすいな、などと地味なことを考えたりもしていました。

段差部分のおさめ方に関しては、工事に入ってからもフジコさんや現場監督さん、大工さんと「垂直面を勝たせるか、平面を勝たせるか、あるいは斜めにカットして角を合わせるか」などと現場で話し合いました。ここは夫が相当こだわっていて、どうするのがいちばんきれいにおさまるのか、かなり真剣に悩んでいました。今回のリノベーションで顕著だったこととして、夫は「おさまり」と「質感」にうるさい、ということです。わたしは雑な性格なので、そういう細かいところにこだわること自体が面倒くさく思えてしまうので、きちんとこだわってくれる夫に対してはありがたいなと思っていました。

フローリングの幅に悩む夫

フローリングを決めるにあたって、最後の難関は「幅」でした。フローリングの幅を15cmにするか12cmにするかでかなり悩みました、夫が。

通常、フローリングは幅広であるほうが高級感があるとされますが、わたしとフジコさんは全体のバランスから見て12cmを押していました。ところが夫が「そうかなあ、どうかなあ」と、打ち合わせスペースにサンプルを並べては悩み、nuのコンセプトルームへ行っては悩み、決めかけ、また悩み、またコンセプトルームを見て、と繰り返しじつに数時間。フローリングの幅を決めるだけで数時間かかりました。

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    nuのコンセプトルーム前の廊下(この幅の狭いフローリングもすきです)。手前に置いてあるのがサンプル。フローリングの話をするのに飽きているわたし。

いよいよ埒があかなくなり、夫も夫で「別にいいんだけど、決めきれんのだよな。ちょっともう一回、なんで12cmがいいのか説明して?」などと言い出す始末。

それで仕方なく「まずフローリング部分が縦長であまり幅がないから、幅広だとそんなに枚数が入らない。幅広はある程度ボリュームがあってこそいいものだと思う」「ダイニング部分がモールテックスでぺったりしているから、フローリング部分は線がいっぱいあったほうが空間全体にメリハリがつく」などと、わたしとフジコさんで再度夫にプレゼンテーションをしました。

「なるほどね。わかった。12cmにしよう。そういうことなら早く言ってよ」
「いやこの数時間ずっと言ってたわ!」

そんな戯れも交えつつ、どうにかこうにかフローリングのことが決まったのでした。

結果、色も幅もメンテナンス性も、全体的によいフローリングになったと思います。段差のおさまりもきれいになったし。

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    断面も馴染むように大工さんが色を塗ってくれた。わたしは合板のこのパキッとした層の模様がけっこうすきです。

そんな感じで、フローリングの話を終わります。次回は、ダイニングテーブルの話を書こうと思います。ダイニングテーブルは、紆余曲折ありました。よろしくお願いします。

Q本かよ

qmoto_ap

俳優/コピーライター/デザイナー
舞台を中心に俳優として活動する傍ら、雑誌、広告でコピーやデザインの仕事を手がけている。
2017年に中古マンションを購入しリノベーション。夫と二人暮らし。曇天という名の犬もいる。