「台所は女の城」という言葉を久しぶりに思い出したのは、NHKで「おんな城主直虎」をやっているせいだと思う。もはや死語ともいえる言葉であるが、昔の女の人の矜持みたいなものが伝わってきて、ちょっとピリリとする。近頃は「旦那もしくは彼氏の方が料理が上手い」カップルは周囲にけっこういて、「料理なんかしたことない」という女子と出会う確率と同じくらいな気がする。私も一人暮らしが長かったり、大阪時代に飲食店をしてたりしたので、自然、今でも台所に立つ時間も多い。先日、映像の現場で「絶対に台所には立ち入らないし、料理も作らない」と豪語していたのは、九州出身のある男優さんだったが、彼の演技は男らしくてかっこよかった。

台所が一番、家の中で「女らしさ」が試される場所ではないだろうか?「女は女らしく」という意味でなく、「男の女らしさ」(?)が試される場所という意味で。冒頭の言葉が示すように、台所は伝統的に女の領域である。昔、料理店でバイトしていた頃、そこの親方は家では一切料理はしないと言っていた。家庭での食事は全部、奥さんが作っていたそうだ。普通に考えれば「旦那さんが料理人で羨ましいわねえ。毎日美味しい料理が食べれて」みたいなことをママ友だとかに言われるよな夫婦であるが、親方は「料理は仕事」だと割り切っていたようだ。料理人は超縦社会なので「男らしさ」の方が問われる職種であると思う。

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    大阪時代に使用していた保健所の許可書。今は自宅の台所にお札のように貼られています。

前述した男優や親方は「男らしさ」の証拠として台所には入らないようにしていたが、自ら進んで台所に立つ男性は、自分の内なる「女らしさ」を発揮するために料理をするのではないか。……うーん。なんだかだんだん、ネット上で時々見かける「●●フェミニスト研究所所長」みたいな肩書きのおっさんのコラムみたいになってきた……。

が、ここで、思いもよらぬことに気がついた。料理をしている時の心理状態がプラモデルを作っている時のそれとかなり近いのだ。思い返してみると、ガンプラを作るのも、肉じゃがを作るのも「趣味に没頭している」感じがするのだ。ということは、乱暴な言い方をすれば、台所に立つことは女にとって「家事」であるが、男にとっては「趣味」なのかもしれない。これは相当な違いである。なんだったら、むしろ、「男らしい行為」そのものである。

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    お芝居で作った棚を実生活でも活用。家の中には他にもセットが活躍中。

もひとついえば、家事は「やんなきゃなんないこと」だが趣味は「やんなくてもいいこと」でもある。男が料理をすると「料理を作ってもらえるのはありがたいが、片付けもちゃんとやって欲しい」という状況が生まれやすいのも、家事と趣味の違いによるものだと言える。

かくいう私も同居する弟に「料理したらきちんと片付けろ、俺はあんたの嫁じゃねえ」と怒られる始末。まだまだ女の城の城主にはなりきれないようである。

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    もしあなたが仕事などのストレスに耐えられないのであれば、その状況から去るべきだという意味の英語表現

劇団子供鉅人 益山貴司

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これまで、子供鉅人のほとんど全ての作・演出を行う。
お化けと女の子に怯える幼少期を過ごした後、20世紀の終わり頃に演劇活動を開始する。
作風は作品ごとに異なり、静かな会話劇からにぎやかな音楽劇までオールジャンルこなす。
一貫しているのは「人間存在の悲しみと可笑しさ」を追求することである。

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